「また同じところが止まりました」
朝いちばんで機械が止まります。現場から声がかかります。業者を呼びます。半日で直ります。作業報告書が置いてあります。請求書が来ます。ファイルに綴じます。そして翌月、同じ機械が同じように止まります。「前も同じところじゃなかったか」。点検表のバインダーを棚から出します。日付順に綴じた紙が1年ぶん、200枚以上あります。その機械の分だけを抜き出して読む方法が、ありません。
先に結論を書きます。点検表が役に立たないのは、現場が書いていないからではありません。ほとんどの工場で、点検表は毎日きちんと書かれています。問題は書いた先で、記録が「日付の束」になっていることです。点検表は「その日、点検をやった」という証跡としては完璧に機能します。ところが困ったときに知りたいのは「この機械が、この1年で何回・どこが止まったか」という縦の並びで、それは日付の束からは出てきません。記録の形が、知りたいことの形と違います。
点検表を綴じても、止まる回数が減らない3つの理由
1. 記録が日付の束で、機械の縦に読めない
点検表は1日1枚の様式がほとんどです。上に日付、左に機械名、右に点検項目のチェック欄。これを毎日綴じていくと、1台ぶんの履歴は200枚に1行ずつ散らばります。1台の履歴を読むには200枚めくるしかありません。実際にはめくらないので、書いた記録は二度と読まれません。現場が「書いても意味がない」と感じるのは、怠けているからではなく、読み返された経験が一度も無いからです。
2. 「異常なし」しか書く欄がない
点検表の欄は、たいてい○×かレ点です。異常があったときに書く欄は「備考」1つで、幅は2cmしかありません。そこに「主軸から異音」と書いたとして、次に必要なのは「どんな音か」「回転数はいくつのときか」「いつから出ているか」です。書く場所が無いので、そこは口頭で伝わり、直った時点で消えます。半年後に同じ音が出ても、前の音と同じかどうかを比べられません。異常の中身が残らない記録は、異常が起きたことしか教えてくれません。
3. 修理の記録が、点検表と別の場所にある
点検表はバインダー、業者の作業報告書は事務所の引き出し、部品の請求書は経理、自社で直したぶんはどこにも残りません。止まった時間(何時から何時まで生産が止まったか)も、たいてい日報の欄外です。この4つが揃って初めて「この機械にいくらかかったか」「この故障は何回目か」が出るのに、揃う場所がありません。業者に「前回と同じ症状です」と言えないので、毎回ゼロから見てもらうことになり、診断の時間ぶんだけ復旧が遅くなります。
この3つに共通していること
どれも記録をしていないという話ではありません。点検表は「その日やったことの証跡」として設計されていて、「その機械の履歴」としては設計されていないというだけです。証跡は監査で見せるために日付順である必要があり、履歴は原因を探すために機械順である必要があります。紙は片方の順番しか持てません。そして現場が毎日書いているのは、ほぼ例外なく証跡のほうです。
やりたいのは、設備管理システムではありません
ここを取り違えると大きくなりすぎます。欲しいのは稼働率の分析でも、予知保全でも、IoTセンサーでもありません。「M-3号機:直近12か月で停止4回、うち3回が主軸まわり、前回のベルト交換は5月12日、油交換の次回予定は今週」の1行です。機械が止まった朝に、業者へ電話する前にこれが言えること。それだけです。
この1行が出るために必要なのは、点検・異常・修理の3つが、機械という同じ鍵で並んでいることだけです。センサーも、稼働監視も要りません。入れるのは今も紙に書いている内容と同じです。変えるのは、書く先の並び順です。
作るもの:3段階に分ける
第1段階:点検を、機械ごとの1行にする
現場は機械の横でスマホから点検を入れます。項目は今の点検表と同じもの(油量・エア圧・異音・切粉・安全カバー)で構いません。違うのは、異常のときだけ本文が開くことです。音・においなど、状況を短く書く欄が出ます。写真も1枚だけ付けられます。入れた瞬間に、その機械の縦の履歴に1行積まれます。ここまでで、現場の手間はレ点を押す回数と変わりません。紙の点検表が要る場合は、日付順の様式で印刷できるようにします(監査に出すのはこちらです)。
第2段階:止まった記録を、点検と同じ台帳に入れる
停止が起きたら、同じ画面に「発生日時・現象・処置・交換部品・止まっていた時間・誰が直したか(自社/業者名)」を1行入れます。業者の作業報告書はPDFか写真で添付します。ここが効く場所です。同じ機械の過去の停止が、そのまま下に並びます。「主軸まわり」が3回並べば、それは運ではありません。業者に見せる画面もこれ1つで済みます。
第3段階:次にやる日を、画面が出す
油交換は3か月ごと、ベルトは1年、フィルターは半年、年次点検は毎年3月、圧力容器やクレーンの法定点検は決められた周期。これを機械ごとに登録しておくと、今週やるもの・期限を過ぎたものだけが最初の画面に出ます。全部の一覧は出しません。出すのは今週の数件だけです。前回やった日は第1・第2段階の記録から自動で入るので、別途どこかに書き写す必要はありません。
入れるものと、出てくるもの
入れるもの:毎日の点検のレ点(異常のときだけ本文)/止まったときの1行/修理の作業報告書/機械ごとの交換周期。
出てくるもの:機械ごとの停止履歴(時系列)/同じ現象が何回目かの数/今週やる保全と、期限を過ぎたものの一覧/日付順に印刷した点検表(監査提出用)/年間の停止回数と停止時間のCSV。
逆に、期待しないほうがいいこと
- 壊れる前に教えてくれることはありません。振動や電流を測っていない以上、予知はできません。この画面がやるのは「過去に3回同じところで止まった」を見せることだけです。ただし実際に効くのは、たいていこちらです。
- 記録の無い過去は出てきません。入れ始めた日からの履歴しか並びません。過去1年ぶんの作業報告書を打ち込みたい場合は、その手間が別途かかります(現実的なのは、直近の大きい停止だけを5〜10件入れることです)。
- 点検そのものの手間はゼロになりません。減るのは、あとから探す時間と、業者に説明する時間です。
- 現場が入れなければ何も出ません。これは仕組みで解決できない部分です。だからこそ、入力の手数を今の紙より増やさないことを設計の条件にします。
よくある質問
点検表はISOの審査で見せるものです。様式を変えてよいのですか
審査で見られるのは「決めた頻度で点検が行われ、記録が残っていること」であって、紙であることではありません。ですので、日付順・機械順の両方で今お使いの様式に近い形で印刷できるようにします。移行の初期は、紙と画面を1〜2か月並行させて、印刷したものが審査に出せる形かをご自身で確かめてから紙をやめるのが安全です。この判断は御社の審査機関の運用によるので、こちらで「大丈夫です」とは申し上げません。
現場がスマホを触りません
よくあります。その場合は現場に共用のタブレット1台を置く形にします。個人のスマホを使わせない工場も多いので、そのほうが揉めません。ログインは個人IDではなく、名前を1回選ぶだけにします。それでも入らない場合は、紙のまま運用して事務所で1日1回まとめて入れる形にもできます。入力が1日遅れても、機械ごとの履歴が引けるという目的は達成できます。
機械が古く、型式が分からないものがあります
問題ありません。鍵にするのは現場での呼び名(「3号機」「奥のフライス」)です。型式・メーカー・導入年は分かるものだけ入れておけば足ります。むしろ古い機械ほど停止が多く、履歴が効きます。
修理は業者任せです。自社で記録する意味がありますか
あります。業者が持っているのは自分が来たときの記録だけで、自社で直したぶん・別の業者が来たぶんは入っていません。また、更新のときに「この機械は年に4回止まって、合計30時間生産が止まっている」と数字で言えるかどうかで、買い替えの話の進み方が変わります。その数字は、自社でしか作れません。
機械が20台あります。多すぎませんか
台数は負担になりません。むしろ台数が多いほど、紙で縦に読むのが不可能になるので効きます。ただし最初から20台ぶんの周期表を作ろうとすると止まります。よく止まる3〜5台だけを先に始めて、残りは点検のレ点だけ入れる、という順で進めるのが現実的です。
まず何から始めればいいですか
この1年でいちばん止まった機械を1台だけ挙げて、その停止を思い出せるだけ紙に書き出してみてください。そこで「日付が出てこない」「同じ現象かどうか分からない」が出たら、それが直すところです。すらすら書き出せてしまったなら、いまは仕組みを作るタイミングではありません。台数か停止の頻度が増えてからで間に合います。
データは誰が持つのですか
御社のものです。CSVでいつでも書き出せます。お預かりしたデータを、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。設備の記録には取引のある業者名や工場の内部の事情が含まれるので、扱いには特に気をつけます。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
機械ごとの点検と停止を1人が入れて、履歴と次回予定を印刷とCSVで出すところまではライトプランの範囲です。現場の複数人がそれぞれの端末から入れて誰が入れたかを残す、作業報告書の写真を添付して貯める、期限が近い保全をメールで知らせる——このあたりはスタンダードになります。点検項目を足す、交換周期を変える、といった変更は保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
「その機械は、この1年で4回止まっています。3回は同じところです」がその場で言える状態にします
いまお使いの点検表を1枚と、直近の業者の作業報告書を1枚(社名と品番は伏せていて構いません)。それだけで十分です。画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。機械が数台で、止まった記憶がすぐ出てくるのであれば、作らないほうがよいとお伝えします。相談は無料です。
メールで相談する 入力フォームで相談するボタンを押してもメールが開かないときは
入力フォームからお送りいただけます(メールソフトは要りません)。メールでお送りになる場合は、下の内容をコピーして tool48h.studio@gmail.com 宛にどうぞ。件名は何でも構いません。
この記事に近い業種のページ:製造業
関連:「あの型、たぶん3番棚です」 / 「その不良、去年も出ていました」 / 無料診断でプランを調べる / 記事一覧
48時間