「あの型、たぶん3番棚です」
リピートの注文が入ります。前に作った型があるはずです。「たぶん3番棚です」——見に行くと無く、パレットの奥から出てきます。あるいは、メッキ屋に出したまま戻っていません。あるいは、客先の倉庫に預けたままでした。型が見つかって、今度は別の問いが出ます。この型、あと何個打てるんでしょうか。誰も答えられないので、とりあえず流して、途中で割れます。
先に結論を書きます。金型・治具の台帳が続かないのは、「持ち物の一覧」として作っているからです。持ち物の一覧は、作った日には正しく、3か月後には合いません。動かした人が書きに戻らないからです。必要なのは資産の一覧ではなく、注文を受けた瞬間に「その型はいまどこにあって、この数量を打ち切れるか」が出る1行です。順番に説明します。
台帳があるのに探すことになる3つの理由
1. 置き場が「最後に決めた場所」で止まっている
台帳の置き場の欄は、たいてい型を作ったとき、あるいは棚を整理したときに書かれています。その後、型は動きます。段取りで出して戻さない、修理のために工具室に置く、外注に出す、客先に返す。動かすのは一瞬ですが、台帳を書き直すのは事務所に戻ってからです。戻る頃には次の段取りが始まっています。書かれないのは横着だからではなく、動かす場所と書く場所が離れているからです。ここが直らない限り、置き場の欄は必ず古くなります。
2. 打った数が型に積み上がっていない
日報には「品番○○ 300個」と書いてあります。その300個をどの型で打ったかは、人の頭の中にあります。型が1品番に1つなら推測できますが、同じ型で複数の品番を打つ、同じ品番に型が2丁ある、という会社では結びつきません。結果、型ごとの累計ショット数は誰も持っていません。持っていないので、限度に対する残りも出せません。「前に割れたのが3年前だから、そろそろ」という運用になります。
3. 型が「1つの物」として扱われている
台帳の1行は、たいてい型1丁です。ところが現場で交換するのは型ごとではなく、パンチ、ダイ、ストリッパ、入れ子、ピンといった部品単位です。パンチだけ2万ショットで替え、入れ子は8万ショット、本体は寿命が来ない。1行しかないと、この違いが書けません。結局「メンテ履歴」という自由記述の欄に文章で書かれ、次に引くときには読み返さないと分かりません。そして、1回降ろすときにどこまで一緒に替えるかは、毎回ベテランの記憶で決まります。
この3つに共通していること
どれも「管理がずさん」という話ではありません。台帳を作ることと、台帳が現場についていくことが別の仕事だというだけです。いまの台帳は、資産として数えるため、あるいは客先に報告するために作られています。次にその型を使う人の都合で作られた形が、どこにもありません。
引くタイミングは、探し始めた後ではありません
型を探すのは、たいてい段取りの直前です。そこで場所が分かっても、遅れは出てしまっています。効くのは、注文を受けたとき、そして生産計画を立てるときです。
受注を入れた時点で、その品番に紐づく型について次が1画面に出ます。
- いまどこにあるか(棚番・機械に載ったまま・外注先・客先預かり・修理中)
- この注文数を打ち切れるか(累計ショットと限度、今回のロットで限度に届くか)
- 降ろすときに何を一緒に替えるか(部品ごとの残りと、手配にかかる日数)
「この型は次のロットの途中で限度に届く」と受注の時点で分かれば、打てる手が3つあります。先にパンチを手配する、ロットを分ける、客先に納期を1週間もらう。段取りの朝に分かった場合、手はひとつも残っていません。この構造は材料発注の記事と同じです。足りないと分かる時点が、手配にかかる日数より後だと、分かっても意味がありません。
作るもの:3段階に分ける
第1段階:場所を、動かす人がその場で書ける形にする
型に札を付けます。型番を印刷したQRやバーコードで構いません。スマホで読むと、その型の画面が開き、「いまどこに置いたか」を2タップで書けます。棚番は選択式、機械に載せたなら機械名を選ぶ、外注に出したなら出し先と出した日を選ぶ。文章は書きません。
ここで大事なのは、入力の場所を、型を動かす場所と同じにすることです。事務所のPCに戻って台帳を開く形にすると、また書かれなくなります。書く内容も、正確な履歴ではなく「いまどこ」の1つだけにします。履歴は書いた結果として自動で残るので、人が意識する必要はありません。
これだけで、探す時間はほぼ無くなります。第2段階に進まなくても、ここだけで元が取れる会社は多いです。
現場が数字を入れると、その場で集計が出る動きを試す 町工場向けに作った日次生産記録のデモです。良品数と不良数を入れると、多い順の並びと理由の内訳がその場で出ます。金型の台帳そのものではありませんが、「現場がその場で入れる」「入れた数がひとりでに積み上がる」「印刷は様式に合わせて出す」という中身は同じ作りです。ブラウザだけで動き、入力したデータは端末の中だけに残ります。第2段階:打った数を、型に積む
生産実績(日報でも、生産管理ソフトのCSVでも構いません)に「どの型を使ったか」の1列を足します。1品番1型なら自動で紐づけ、複数ある型は段取りのときに選びます。これで累計ショット数がひとりでに溜まります。
型ごとに限度ショット数と次の点検の目安を持たせておくと、一覧は「残りが少ない順」で並びます。ここで出したいのは日付ではなく、次のロットで限度を超える型です。「残り8,000ショットで、次の注文が12,000個」の組み合わせが、色で目立つ。これが第2段階の成果物です。
ショットカウンタが付いていない型は、実績からの積み上げになります。実際に打った数の合計なので、カウンタほど正確ではありませんが、傾向を出すには十分です。むしろ問題になるのは、これまでの累計が分からないことのほうです。これは次のFAQで扱います。
第3段階:部品単位のメンテナンス記録
型の下に部品の行をぶら下げます。パンチ、ダイ、入れ子、ピン。それぞれに限度ショットと、前回替えた日と、そのときの累計を持たせます。すると「1回降ろすとき、どこまで一緒に替えるか」が判断できます。残り12,000ショットのピンは、いま降ろすなら一緒に替えたほうが、次に単独で降ろすより安い。この判断が、ベテランの記憶から画面に移ります。
第3段階は後回しで構いません。第1段階と第2段階だけで、探す時間と途中で割れる事故はほとんど無くなります。部品単位に分けるのは、型の数が多く、部品の手配に日数がかかる会社で効いてきます。
逆に、期待しないほうがいいこと
- 寿命は予測できません。限度ショットは御社が決めた数字であって、その手前で割れることも、倍打てることもあります。作るのは「そろそろ、と気づく時点を手配日数より前に持ってくる」までです。摩耗の予知はしません
- 最初の棚卸は人がやります。いま何丁あって、どこにあるのかを一度は歩いて確かめる必要があります。ここを自動化する方法はありません。ただし全数を一度に回る必要はなく、使った型から順に札を付けていけば、動いている型は数か月で揃います
- 過去の累計ショットは戻せません。カウンタが無い型の「これまで何ショット打ったか」は、多くの場合もう分かりません。その型は「今日からの累計」で始めて、限度ではなく前回の修理からの経過で見ることになります。ここを正確にしようとすると、始める前に止まります
- 客先支給の型の所有権や保管責任は、契約の話です。画面に「誰の型か」「いつから預かっているか」を持たせることはできますが、返却や廃棄の判断は人と契約が決めます
- CADや3Dのデータは扱いません。図面や形状データは、いまの場所に置いたまま、型の行からリンクでぶら下げる形にします。この線引きは支給図面の改訂の記事と同じです
よくある質問
型が何百丁もあります。全部の札付けは無理です
全部は要りません。直近1年で1回でも使った型から始めてください。多くの会社で、これは全体の2〜3割です。残りは棚にあるまま「未登録」で構いません。次に使うことになった日に札を付ければ、そのとき初めて要るからです。最初に全数を揃えようとして、半年経っても始まらない——これがいちばん多い止まり方です。
ショットカウンタが付いていません
付けなくても始められます。生産実績の数量を型に積むだけで、傾向は出ます。カウンタが要るのは、1回の段取りで複数の型を掛け替える場合と、試打ちの数が多い場合です。そこまで精度が要るかどうかは、限度に届く手前で降ろせているかで判断できます。多くの場合、実績の積み上げで足ります。
客先から支給された型と、自社の型が混ざっています
同じ台帳で扱い、所有者の列で分けます。客先支給の型は、限度に届いたときに勝手に替えられないので、画面上は「客先へ連絡」の扱いにします。実際、支給型のほうが問題になりやすいです。預かっている型を何年も動かさないまま持っていて、客先も忘れている——棚の場所を占めているのはたいていこちらです。所有者と最終使用日で並べると、返却や廃棄の相談が出せる状態になります。
生産管理ソフトに品番も実績も入っています
あるなら、そちらをそのまま使います。足りないのはたいてい「型そのものの行」と「現場がその場で場所を書ける入口」の2つです。その2つだけを外に作り、生産実績はCSVで受け取って型に積む形にできます。考え方はパッケージの外に残る仕事と同じで、中心のデータは元のソフトに置いたままにします。
誰が入力するのですか
型を動かした人です。段取りをする人、修理に出す人、外注に持って行く人。1回の入力が10秒で終わらないなら、書かれません。ですので、場所の入力はQRを読んで選択式のボタンを押すだけにします。事務方がまとめて入力する形にすると、「動いたこと自体」が伝わらないので更新されません。
外注先に預けた型が帰ってこないことがあります
出した日と、戻る予定の日を持たせます。予定を過ぎた型だけが一覧の上に出る形にすれば、催促できます。多くの会社で、出しっぱなしに気づくのは次に使おうとしたときです。これは外注工程の記事で書いた「出した物が視界から消える」問題と同じで、台帳を分けると必ず片方が古くなります。型の行に出し入れを持たせるほうが続きます。
廃棄の判断はできますか
判断は人がしますが、材料は出せます。最終使用日が3年以上前、客先の品番が終息、限度ショットに届いている——この3つで絞ると、廃棄や返却の相談ができる型が並びます。保管場所には費用がかかっているので、ここは一度出す価値があります。ただし「使わないから捨てる」の判断は客先との取り決めに触れることがあるので、並べるところまでにします。
治具や検具も同じ台帳でいいですか
同じで構いません。治具は場所の管理が主で、ショット数の概念が無いものが多いので、限度の欄を空にしておけば同じ画面が使えます。ただし検具(ゲージ類)は校正期限が別に要ります。期限の管理は性格が違うので、測定器の校正期限の記事のほうを参照してください。同じ画面に混ぜると、どちらの警告も薄まります。
データは誰が持つのですか
御社のものです。CSVでいつでも書き出せます。お預かりしたデータを、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。客先支給の型の情報が含まれるので、扱いには特に気をつけます。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
第1段階(型の一覧、QRで開く画面、場所の記録、印刷とCSV)はライトプランの範囲です。複数人がスマホから入れて誰が動かしたかを残す、生産実績を取り込んで累計ショットを積む、部品単位のメンテナンス記録を持つ——このあたりはスタンダードになります。限度ショットの見直しや棚番の追加は保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
「その型はいまどこで、この注文を打ち切れるか」が受注の時点で出る状態にします
いまお使いの型の台帳を1枚(客先名と品番は伏せていて構いません)と、よく探すことになる型がどんなものか。それだけで十分です。画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。型が常に機械に載ったままで動かないのなら、置き場の画面は効きません。そのときは、その理由も正直に書きます。相談は無料です。
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