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在庫表はあるのに、足りないか余るかになる

2026年9月10日 / 48時間ツール工房 / 町工場の材料発注

注文が入る。材料が足りるかを確かめようとして、事務所のPCで在庫表を開く。SUS304の丸棒、φ20、「12本」と書いてある。足りる。……のに、なぜか席を立って、倉庫まで数えに行く。

この記事は、その「数えに行く」をやめるための話です。先に結論を書きます。在庫表が答えているのは「前に数えたとき何本あったか」で、発注のときに知りたいのは「これから足りるか」です。この2つは似ていますが、別の問いです。Excelの在庫表は前者しか持っていないので、後者はいつも人の頭の中で計算されます。足りなくなるのも余るのも、その暗算が外れたときです。

「12本ある」と「12本使える」は違う

発注していいかを判断するとき、実際に見ているのは棚の本数ではありません。次の3つを足し引きした数です。現場ではこれを有効在庫と呼びます。

見ているもの意味今どこにあるか
現物在庫棚に実際にある数在庫表(最後に棚卸しした日の数)
− 引当受注済みの仕事で使う予定の数受注一覧、工程表、担当者の記憶
+ 発注残発注済みでまだ入ってきていない数発注書の控え、商社とのメール
= 有効在庫この先ほんとうに使える数どこにも無い

問題がはっきりします。3つの数が3か所に分かれて置かれていて、しかも持ち主が違います。在庫表は事務、受注は営業、発注書の控えは資材か社長。1人で全部やっている工場でも、ファイルは3つに分かれています。引き算をするには3つを同時に開くしかなく、開くのが面倒なので、たいていは「たしか先週2本使ったから、10本くらいかな」と頭の中で済ませます。

この暗算はよく当たります。だから続きます。外れるのは、いつもと違うことが起きたときだけです——飛び込みの注文が入った、見積り段階の案件で先に材料を押さえた、入荷が1週間遅れた、不良で1本余分に使った。つまり外れるのは「忙しいとき」に限られます。足りないことに気づくのが、いちばん困る日になるのはそのためです。

倉庫に見に行くのは、在庫表を信じていないから

もうひとつ、根の深い話をします。棚卸しをして数が合わなかったとき、多くの工場は在庫表の数字を実際の数に書き換えて終わりにします。それ以外にやりようがないからです。

ここで何が起きているか。Excelの在庫表が持っているのは残高だけで、履歴を持っていません。セルを上書きした瞬間、前の数字は消えます。だから差異が出ても、いつどこでズレたのかを後から追えません。追えないので原因も分かりません。原因が分からないので、次の棚卸しでもまた同じだけズレます。

この順番で「見に行く」習慣ができる

  1. 棚卸しで在庫表と実物が合わない
  2. 実物に合わせて在庫表を書き換える(前の数字は消える)
  3. いつズレたか分からないので、原因は分からないまま
  4. 次の棚卸しでも同じだけズレる
  5. 「在庫表はあてにならない」が事実として定着する
  6. 発注のたびに倉庫へ数えに行く

入力が雑だからでも、現場の意識が低いからでもありません。残高だけを持って履歴を持たない作りにした時点で、この順番はほぼ必ず起こります。

ツールにするときの中心は、実はここです。残高を「書く」のをやめて、入出庫を1本ずつ記録し、残高はそこから計算で出す形にします。そうすると、棚卸しで差異が出たときに「先週の火曜に払い出しが2本入っていない」ところまで遡れます。1回そこまで辿れると、原因はたいてい1つか2つの決まった手順にあると分かります。直すべきは在庫表ではなくその手順のほうで、直せば次の棚卸しは合います。

町工場の材料は「1日あたりの使用量」では読めない

在庫の本には、発注点は「1日あたりの使用量 × (入荷までの日数 + 安全在庫の日数)」で決めると書いてあります。これは正しいのですが、そのまま当てはまるのは毎日ほぼ同じ量が減っていくものだけです。手袋、切削油、砥石、軍手、梱包材。こういう品目は平均で読めます。

一方、加工に使う材料はそう減りません。受注が決まった瞬間に、まとめて減ります。3か月動かなかった材質が、1件の注文で一気に20本必要になる。平均使用量で発注点を引いておくと、その注文が入った日には手遅れです。逆に、たまたま大口が続いた直後の平均で引くと、要らない材料を買い込むことになります。

ですから、品目を最初に2つに分けます。これが在庫ツールの設計でいちばん効く判断です。

種類何で発注を判断するか
消耗品・副資材切削油、砥石、手袋、梱包材、汎用ボルト1日あたりの使用量から出す発注点でよい
加工材料丸棒、板材、購入部品、指定材質のもの受注に紐づいた引当。平均では読めない

片方だけを作ったツールは、たいてい使われなくなります。消耗品の考え方で材料を管理すると外し、材料の考え方で消耗品を管理すると、1本使うたびに受注番号を聞かれることになって現場が入力をやめます。同じ画面の中で、品目ごとに判定の仕方を変えるのが正解です。

発注点の動くデモを見る(クリニックの物品在庫) 「1日あたりの使用量 ×(入荷日数+安全在庫)」で発注点を引き、割った品目だけを並べて発注書を印刷するところまでが動きます。上の表でいう消耗品側の考え方です。診療所向けに作ったものですが、判定の仕組みと画面の作りは工場の副資材でもそのまま使えます。

作り方は3段階に分かれる

第1段階:入出庫を記録して、残高を計算で出す(ライトプラン)

画面は2枚です。1枚目は品目の一覧で、品名・規格・材質・単位・置き場所と、現在の残高が並びます。この残高は入力できません(ここが要点です)。2枚目は入出庫の入力で、「いつ・どの品目を・何本・入庫か出庫か・どの工番で」を1行足していきます。残高は入庫の合計から出庫の合計を引いて、そのつど計算されます。

棚卸しは残高を書き換えるのではなく、「棚卸し」という種類の1行として記録します。差異があれば差異のまま履歴に残るので、後から何本ずれたかも、いつからずれ始めたかも追えます。この形にするだけで、さきほどの「見に行く習慣」の連鎖は止まります。CSVで全件書き出せるので、月末に会計や税理士へ渡す資料もそのまま作れます。

第2段階:発注点と発注残を足す

品目ごとに発注点と発注ロット(1回に頼む単位)、仕入先と入荷までの日数を持たせます。発注点を割った品目だけが一覧の先頭に集まり、仕入先ごとにまとめた発注書がそのまま印刷・PDF化できます。発注したものは発注残として残高とは別に持ち、入荷したときに入庫の1行に変わります。二重発注が無くなるのはここです。「頼んだ気がするけど控えが見つからない」で、もう一度頼んでしまう事故はここまでで消えます。

第3段階:受注と紐づけて引当を出す(スタンダードプラン)

受注(工番)ごとに使う材料と本数を登録すると、その分が引当として在庫から差し引かれ、一覧に有効在庫の列が増えます。ここまで来ると、注文を受けた時点で「この材料はあと3本足りない、今日頼めば納期に間に合う」が画面の上で分かります。倉庫へ数えに行く用事が無くなるのは、この段階です。複数人で使うのでログイン(合言葉かメールのリンク)を付け、スマホから現場で入出庫を入れられるようにします。

いきなり第3段階まで作らないほうがいい、というのが私たちの考えです。第1段階の記録が現場で回っていないうちに引当を載せると、間違った有効在庫が自信たっぷりに表示されることになり、Excelより危険な道具になります。まず入出庫が毎日入る状態を作って、その上に載せる順番をおすすめしています。

よくある質問

棚卸しはやめられますか

やめられません。現物を数える作業は残ります。変わるのは、棚卸しの後にやることです。今は数えた後に在庫表を書き換えていますが、その手作業が無くなり、差異のある品目だけが一覧で出るようになります。棚卸しそのものも、スマホの画面に品目を並べて数を打っていく形にすると、紙に書いてからPCに打ち直す往復が1回分減ります。

現場が入力してくれないと思います

いちばん多いご質問です。設計の側でできることは3つあります。第一に、入力を1品目3タップ以内に収めること(品目を探す・数を打つ・確定)。工番の入力は、その日に動いている工番だけを候補に出せば1タップです。第二に、入力しない人がいても壊れない形にすること。記録が抜けた分は棚卸しの差異として現れるので、抜けたこと自体が見えます。第三に、入力した人に返るものを作ることです。たとえば「自分が今日出庫した分が一覧に出る」だけでも、入れる理由が生まれます。それでも定着しない場合は、現場入力をやめて事務が1日1回まとめて入れる形にしても、第1段階と第2段階の効果はそのまま出ます。

材質やロット、ミルシートも管理したいのですが

できます。品目に材質・ロット番号・入荷日・ミルシートの写しを持たせて、出庫のときにどのロットから出したかを記録する形になります。ただしロット単位で追う場合、入出庫の1行が「品目+ロット」単位になるので、現場の入力の手数が増えます。得意先からトレーサビリティを求められている材料だけロット管理にして、他は品目単位にする、という分け方が現実的です。この切り分けは最初のご相談で一緒に決めます。

今のExcelの在庫表はそのまま使えますか

品目のマスタ(品名・規格・材質・単位・仕入先・単価)としてそのまま取り込めます。お送りいただければ、こちらで列を見て取り込みます。ただし現在の残高は、取り込みではなく「最初の棚卸し」として入れることをおすすめします。合っていない数字を出発点にすると、そのズレが以後ずっと履歴に残らないまま尾を引くためです。開始日を決めて1度だけ数えていただければ、そこから先は合い続けます。

バーコードやハンディターミナルは要りますか

品目が200を超えて、同じ規格で材質だけ違うものが多いなら、効果があります。専用のハンディターミナルは要りません。スマホのカメラでバーコードやQRを読む形で足ります(棚のラベルはこちらで印刷できる形にします)。品目が数十のうちは、一覧から選ぶほうがむしろ速いので、最初は付けないことをおすすめしています。

データは誰のものですか

お客様のものです。全件をCSVで書き出せる形にしてお渡しし、ソースコードもzipでお渡しします。契約が終わってもツールは動き続け、社内の方や他社が引き継げます。お預かりした品目表や取引先の情報を、他のお客様の案件に使うことはありません。

費用と期間

プラン内容期間金額(税別)
ライト画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用48時間¥98,000
スタンダード画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ5営業日¥298,000
保守・改修月2件までの改修、不具合対応は無制限月額¥30,000

第1段階(入出庫の記録と残高の自動計算)と第2段階(発注点・発注書)まではライトプランの範囲です。第3段階の引当・複数人・スマホ入力まで入れるとスタンダードになります。いずれも初期費用のみで、月額の利用料はかかりません。印刷・PDF出力とCSVの入出力、スマホ対応は、どちらのプランでも標準で入っています。品目の追加や発注書の様式の変更は、保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。

今お使いの在庫表を1枚、送ってください

Excelの在庫表(列がそろっていなくても、シートが分かれていても構いません)があれば十分です。品目がいくつあり、そのうち引当が要るものがどれで、画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。よく切らす品目と、逆に余りがちな品目を2つ3つ書き添えていただけると、精度が上がります。今のExcelのままで足りると判断したときは、その理由も正直に書きます。相談は無料です。

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