前の版の図面で、削ってしまう
検査で寸法が合わない。図面を見比べたら、客先から改訂が来ていた。気づいたのは、100個削り終わったあとでした。部品加工の会社で、これがいちばん高くつく事故です。材料費と加工時間がまるごと消えるうえに、納期が後ろに動き、その説明のために電話を1本かけることになります。
この記事は、図面管理システムを入れる話ではありません。先に結論を書きます。取り違えが起きるのは、版を管理していないからではありません。「今この作業で使う図面はこれ1枚」を、誰も決めていないからです。だから台帳を作っただけでは直りません。直るのは、改訂が来た瞬間に「止めるもの・作り直すもの・そのまま出せるもの」が一覧で出るようになったときです。順番に説明します。
図面は、3つ以上の経路から入ってくる
版を取り違える会社が、だらしないわけではありません。図面の入口が1つではない、というだけです。
| 経路 | 最初に受け取る人 | 台帳に載りにくい理由 |
|---|---|---|
| メールのPDF添付 | 担当者個人のメール | その人の受信箱にしか無い。休むと誰も気づかない |
| FAXの紙 | 事務所(誰か) | 紙のまま現場に回る。受け取った記録が残らない |
| 客先のポータル | ログインできる人 | ダウンロードした人のPCに入る。通知メールを見落とすと存在に気づかない |
| 営業が持ち帰った紙 | 営業 | 打ち合わせの資料と混ざる。正式な改訂かどうかが曖昧 |
| 現品と一緒に届く | 受入 | そもそも図面が来ているという認識にならない |
経路が違えば受け取る人も違い、結果として「誰が台帳に載せるのか」が決まりません。決まっていない仕事は「気づいた人が載せる」になり、それは「載らない」とほぼ同じ意味です。まず直すのはここで、台帳の作りより先の話です。
版の表記が、客先ごとに違う
Rev.A・Rev.B と振る客先、丸囲みの①②で振る客先、日付だけの客先、通し番号の客先。そしていちばん危ないのは、何も書かずに差し替えだけ送ってくる客先です。同じ品番の図面が2枚あるのに、図面自体を見てもどちらが新しいか分かりません。
対処は決まっています。社内で受付番号を通し番号で振り、客先の表記はその横に控える。並べ替えと判断の基準を自社側に持つ、ということです。表記が無い図面には、受領日を版として扱う欄を用意します。客先の書き方を統一してもらうのは現実的ではないので、受け取る側で揃えます。
注文書に、版は書かれていない
注文書に載るのは品番と数量です。版が書かれていないことは珍しくありません。客先の中では「最新で作るのが当然」なので、書く必要を感じていないだけです。
一方、受け取った側の現場は前回のフォルダを開きます。前回と版が違っていれば、その時点で事故はもう確定しています。あとは、どこで気づくかだけの問題です。
ここが分かれ道になります。「最新版で作る」を既定にするのか、「注文ごとに版を確認する」を既定にするのか。どちらでも構いませんが、決めていない会社がいちばん危ない、というのがこの話の要点です。決めていないと、人によって既定が違うことになります。
ただし、最新版で作るのが正しいとは限らない
「常に最新版を配ればいい」で片づけたくなりますが、それが間違いになる場面があります。
- 改訂の適用が次のロットからで、今回の注文は前の版のまま、と客先が言っている
- 客先の手元にある現物や在庫と組み合わせるので、今の分は前の版で揃えないといけない
- 改訂が来たのは受注のあとで、客先の中でも適用の判断がまだ付いていない
ですから正解は「最新版を配る」ではありません。注文ごとに使う版を1つに固定して、それを現場に見せることです。台帳が持つ「その品番の最新版」と、工番が持つ「この注文で使う版」は、別の欄になります。この2つを1つの欄で兼ねている台帳は、上のような場面で必ず食い違います。
気づく場所が遅いほど、高くなる
| 気づく場所 | そのときの損 |
|---|---|
| 出図の前(受注の段取り) | 損はありません。確認の電話が1本増えるだけ |
| 段取り中・1個目 | 材料1本と段取り時間。プログラムの直しが要る場合もありますが、まだ作り直せます |
| 加工の途中 | そこまでの仕掛品の材料と時間。残りは止められます |
| 検査 | ロット全損に近くなります。納期が後ろに動き、材料の再手配が要ります |
| 納入後・客先の組立 | 回収と選別、客先の工程が止まります。金額では済まない話になります |
この表を見ると、いまの仕組みで何が起きているかが分かります。検査が、版違いを見つける最後の砦になっている。ですが検査は寸法を見る場所で、版を見る場所ではありません。しかも検査は工程のいちばん後ろです。砦をここに置いている限り、見つかったときには必ず高くつきます。
Excelの図面台帳が半年で止まる、3つの理由
1. 載せる人が決まらない
先の入口の話がそのまま出ます。メールで受け取る人、FAXを取る人、ポータルを開く人が別々なので、台帳を開く習慣が誰にも付きません。最初の1か月は埋まっていて、2か月目から抜けはじめ、半年で「見ても当てにならない台帳」になります。
2. 現場が見るのは紙で、台帳ではない
これがいちばん大きい理由です。台帳の最新版が正しく更新されていても、現場のクリップボードに古い紙が挟まっていれば、取り違えは起きます。台帳に足りないのは版の履歴ではなく、「いつ・誰に・どの版を何枚渡したか」という出図の記録です。これが無いと、改訂が来ても回収に行く先が分かりません。
3. ファイル名で管理すると、必ず「_最新2」になる
「A社_12345_最新.pdf」の隣に「_最新2.pdf」ができ、そのうち「_ほんとの最新.pdf」が生まれます。ファイル名に書ける情報は1行だけなので、版・受領日・適用開始・客先の表記が全部そこへ押し込まれ、書き方が人によって変わっていきます。フォルダを分けても同じで、分け方が人によって変わります。
Excelが悪いという話ではありません
1行1版で並べる台帳の形は、Excelで正しく作れます。続かないのは形のせいではなく、出図の記録と、改訂が来たときの引き当て(この品番で今流れている工番はどれか)が、Excelだと毎回の手作業になるからです。手作業になるものは、忙しい日に飛びます。ツールにする値打ちがあるのはこの2つで、台帳そのものはExcelのままでも構いません。
目的は、改訂が来た瞬間に3つに分けられること
改訂の通知を受け取ったときに本当に欲しいのは、版の履歴ではありません。次の3つの一覧です。
- 止めるもの … その品番で今流れている工番(段取り中・加工中・検査待ち)。まず機械を止めるかを決めます
- 確認するもの … 完成在庫、出荷待ち、すでに納入したロット。客先に相談する対象です
- そのまま出せるもの … 適用が次ロットからなら、今の分は前の版のままでよい。ここが判別できると、止めなくていいものを止めずに済みます
この3つが出るようになると、改訂の受け取りが「ファイルを保存する作業」から「判断」に変わります。逆に、ここが出ない台帳は、作った意味が半分しかありません。版を並べただけでは、何をすべきかは分からないからです。
現場が押して、記録が1か所に貯まる形を見る(町工場の日次記録のデモ) 題材は日次の生産実績ですが、作りは図面台帳と同じです。現場が1画面で入力し、日付順に記録が貯まり、集計が自動で出るところまで動きます。図面台帳では、この「実績」の位置に「受領した版」と「出図した相手」が入ります。図面台帳そのもののデモはまだ公開していないので、御社の品番と客先の版の書き方を1つ教えていただければ、その形の試作画面を無料でお作りしてお送りします。いきなり全部やらない。3段階に分ける
第1段階:受領と出図の記録だけ
台帳に1行1版で登録します。持つ欄は、品番・客先・客先の版の表記・社内の受付番号・受領日・経路・ファイルの置き場所。これに出図の記録(いつ・誰に・どの版を何枚渡したか)を足します。改訂を登録すると、その品番の前の版を渡した先が一覧で出る形にします。つまり回収の宛先が分かるようにするのが第1段階の目的です。
図面ファイルそのものは、今のファイルサーバに置いたままで構いません。台帳が持つのは場所と版です。ファイルを移す作業は発生しません。
第2段階:工番に版を固定する
作業指示に「この工番で使う版」を1つ持たせます。現場が見るのは台帳の最新版ではなく、その工番の版です。出図する紙には受付番号を大きく印字し、作業前に番号だけ読み合わせる。この読み合わせが、検査より前の砦になります。
第3段階:改訂の中身と検査項目
改訂で何が変わったかを3行のメモで残します(自動では出ません。後述します)。寸法が変わった項目を検査成績書の項目に反映できるようにすると、版と検査がつながります。ここは検査成績書の話と同じ仕組みの上に載ります。
第1段階だけでも、取り違えは目に見えて減ります。先に第2段階から入らないでください。工番に版を紐づけても、受領の記録が抜けていれば紐づける相手が無いからです。
紙をやめる話ではありません
現場で紙は強いです。油で汚れても読めるし、電源も要らず、機械の横に置いておけます。やめるのは紙ではなく、紙が正である状態です。正は台帳に置いて、現場の紙は「台帳の写し」にする。写しであれば、古いものが出てきたときに番号で見分けられます。ホワイトボードを捨てなくていいのと、同じ考え方です。
逆に、期待しないほうがいいこと
- CADファイルの中身は扱いません。DXFやSTEPを開いて寸法を機械で比較するようなことはしません。台帳が持てるのはPDFの表示と、人が書いた差分メモまでです
- 改訂の差分は自動では出ません。客先の図面に変更前後が書かれていれば転記できますが、無ければ人が見比べます。ツールの役目は「見比べた結果を残して、次の人が見比べ直さずに済む」ところです
- 客先ポータルへの自動ログインはしません。認証と利用規約の問題があるので、ダウンロードは人が行い、登録から先を受け持ちます
- 取り違えがゼロになるとは言えません。減るのは「気づくのが遅れる」ぶんです。検査より前で止まる回数が増える、というのが現実的な効果です
よくある質問
図面がFAXと紙でしか来ません
スキャンか、スマホで撮って台帳に添付します。図面を見るのは紙のままで構いません。台帳に載せるのは「いつ・どの版を受け取ったか」という事実です。撮った写真は原図の代わりにはなりませんが、版を見分けるには足ります。紙にも受付番号を書き込んでいただく運用にすると、現場の照合が確実になります。
客先ごとに版の書き方が違います
台帳は「客先の表記」と「社内の受付番号」を別の欄で持ちます。並べ替えと判断は社内の番号で行うので、客先の書き方が何であっても揃います。表記が無い図面には、受領日を版として扱う欄を用意します。客先が20社あっても、社内の見え方は1つになります。
現場にPCがありません
第1段階は事務所だけで回ります。現場が触るのは、出図の紙に印字された受付番号を作業前に読み合わせるところだけです。第2段階でタブレットを1台置く形にもできますが、番号の印字と読み合わせだけでも取り違えは大きく減ります。現場に機械を増やすことが目的ではありません。
販売管理ソフトに図面の欄があります
あるなら、それを使ってください。足りないのはたいてい出図の記録と改訂時の影響一覧の2つです。その2つだけを外に作り、品番と工番はCSVでソフトから受け取る形にできます。考え方はパッケージの外に残る仕事と同じで、中心のデータはソフトに置いたままにします。
図面の枚数が多いのですが、入力が大変ではありませんか
過去の分を全部入れる必要はありません。今流れている品番と、これから改訂が来そうな品番から入れます。既にExcelの台帳があればCSVで取り込みます。入れていない品番は「台帳に無い」とはっきり分かるので、そこだけ従来どおりに扱えます。全部入っていないと使えない作りにはしません。
何人まで使えますか
事務所の数人で使う第1段階はライトプランの範囲です。現場からも見て、工番と紐づける第2段階からは、記録を貯めて同時に開く必要があるのでスタンダードになります。人数で追加の費用はかかりません。
データは誰が持つのですか
御社のものです。CSVでいつでも書き出せます。図面ファイルは御社のファイルサーバに置いたままにして、台帳はその場所を指すだけにできます。お預かりした図面を、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
第1段階(受領と出図の記録、改訂時の影響一覧)はライトプランの範囲です。CSVの取り込みと書き出しもこの中に入ります。工番との紐づけ、現場からの参照、検査項目への反映まで入れる場合はスタンダードになります。図面ファイルの保管場所は変えないので、ファイルサーバやCADの費用が増えることはありません。客先ごとの版の表記の追加や、欄の追加は保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
同じ品番の図面が2枚ある状態を、1枚に決めます
今お使いの図面台帳を1つ(Excelでも、フォルダの一覧の画面写真でも構いません)と、客先の版の書き方の例を1つ。それだけで十分です。受領から出図までのどこで版が決まっていないのか、改訂が来たときに何が一覧で出るべきなのか、画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。台帳を作るより先に、注文書へ版を書いてもらうよう客先に頼むほうが早いと判断したときは、その理由も正直に書きます。相談は無料です。
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