「その一台、先月で切れてます」
客先の監査で、検査室のマイクロメータを1本抜き取られます。貼ってあるシールの日付を見て、「これ、先月で切れてますね」。台帳はあります。Excelで作った校正管理台帳に、器具番号と前回校正日と次回期限が並んでいます。切れていたのは、台帳が無かったからではありません。台帳はあって、期限の列にちゃんと先月の日付が入っていました。誰も、その月に見なかっただけです。
先に結論を書きます。校正期限を期限日で管理している限り、いつか切れます。外部に出す校正は、出してから戻るまで1〜2週間かかります。期限の日に気づいても、もう間に合いません。並べるべきなのは期限日ではなく、手配にかかる日数を引いた「出す日」です。順番に説明します。
台帳があるのに切れる、3つの理由
1. 期限の日で並べている
台帳の「次回校正期限」で並べ替えると、いちばん上に来るのは「あと3日で切れる器具」です。そこから外部校正に出したら、戻るのは2週間後。気づいた時点ですでに手遅れだったことに、気づいた時点では気づけません。ノギスやマイクロメータのように社内点検で済ませるものは間に合いますが、圧力計・トルクレンチ・三次元測定機のように業者に出すものは、期限日で見ていると必ず一度は切らします。
2. 手元にない器具が数えられていない
校正に出している間、その器具は社内にありません。現場に貸し出している器具も、検査室の棚にはありません。台帳の行は残っているので、一覧の上では「ある」ように見えます。棚を見て「この番号が無い」と気づいたとき、それが校正中なのか、誰かが持ち出しているのか、無くしたのかが分かりません。分からないので、とりあえず別の器具で測ります。
3. 台数が静かに増えている
新しくノギスを2本買いました。現場が自分で買った限界ゲージがあります。前の担当者が作った治具が使われています。台帳に載っていない器具は、期限の一覧にも出てきません。出てこないので、切れていることも分かりません。監査で指摘されるのは、たいていこの3番目です。
この3つに共通していること
どれも「担当者が忘れた」話ではありません。台帳が、見た瞬間に行動が決まる形になっていないだけです。期限の一覧は「状態」を表していますが、必要なのは「今週、何をするか」です。この2つは別のものなので、片方からもう片方を頭の中で毎回変換していると、忙しい月に落ちます。
本当に重いのは、切れたことではありません
期限が切れた器具が見つかったとき、やらなければならないのはさかのぼって調べることです。前回の校正日から今日までの間に、その器具でどの製品を測ったか。測った製品はもう客先に出ています。出した先に連絡するのか、しないのか。その判断には、少なくとも次の3つが要ります。
- どの期間に使われていたか(前回の校正日から発見日まで)
- その期間に、その器具で測った検査成績書はどれか
- 今回の校正結果が、許容の範囲に入っていたか(入っていれば「影響なし」と書ける)
3つ目がいちばん大事です。校正に出して「規格内でした」と結果が返ってくれば、期限は切れていたが測定値は正しかったと説明できます。つまり本当に困るのは、期限切れそのものではなく、2つ目——その器具で何を測ったかの記録が無いことです。記録が無いと、期間中の全ロットを疑うしかなくなります。1本の期限切れが、3か月ぶんの再検査になります。
ここは検査成績書の記事で書いた話とつながっています。検査記録に「測定に使った器具の番号」が入っていれば、遡及調査は一覧の絞り込みで終わります。入っていなければ、紙をめくることになります。
作るもの:3段階に分ける
第1段階:台帳と「出す日」の逆算
器具ごとに、器具番号・名称・測定範囲・設置場所・校正周期・前回校正日・校正先(社内/業者名)・手配に要する日数を持ちます。最後の1つが肝で、これを期限から引いた日付が「出す日」です。
| 器具 | 校正先 | 期限 | 手配日数 | 出す日 | 状態 |
|---|---|---|---|---|---|
| マイクロメータ M-12 | 社内点検 | 10/28 | 1日 | 10/27 | 余裕 |
| トルクレンチ T-3 | A社(外部) | 10/20 | 14日 | 10/06 | 今週出す |
| 圧力計 P-7 | B社(外部) | 11/15 | 21日 | 10/25 | 来月 |
期限で並べるとトルクレンチは2番目ですが、出す日で並べると1番上に来ます。見出しも「期限が近い器具」ではなく「今週出す器具」にします。画面を開いた人が、見てから次にやることを考えなくていい形にする、というだけのことです。手配日数は業者ごとに一度入れれば済みます。繁忙期に伸びる業者は、実績から自動で延ばします。
第2段階:出庫と返却(いま、どこにあるか)
器具を動かしたときだけ、1行記録します。校正に出した/戻った、現場に貸した/返った。これで台帳の状態が「在庫・校正中・貸出中」の3つに分かれ、棚に無い理由が画面で分かります。戻ってきたときに校正日を更新すれば、次の期限と次の「出す日」は自動で出ます。返却の予定日を過ぎているものは色を変えます。
ここで大事なのは、出す前に台帳を更新することを前提にしないことです。現場は先に器具を持っていきます。だから記録は後から追いつける形にして、「いつ持ち出したか」は分からないまま「今は誰が持っているか」だけを正とします。厳密さを求めると入力が止まり、入力が止まると画面が嘘になります。
第3段階:使用記録(遡及調査のため)
検査記録に器具番号を紐づけます。すでに検査成績書をツールで作っているなら、器具番号を選ぶ欄を足すだけです。紙の成績書のままなら、ロット単位で「この工程はこの器具」と決めて記録します。そこまで作れば、期限切れが見つかったときに「前回校正日から今日までに、この器具を使ったロット」が一覧で出ます。
第3段階は後回しで構いません。第1段階だけでも、切らさない状態は作れます。第3段階は「切れてしまった後の調査を軽くする」ための保険なので、順番は逆にならないほうがいいです。
逆に、期待しないほうがいいこと
- 校正そのものは代われません。測って合否を判定するのは業者か社内の有資格者の仕事です。作るのは、出す日を外さない仕組みと、記録の置き場です
- 校正証明書の中身は読みません。PDFを器具の行に添付して、いつでも出せる状態にするところまでです。測定値を読み取って合否を自動判定する話は、器種ごとに様式が違うので割に合いません
- ISOの文書体系は作りません。品質マニュアルや手順書そのものは御社のものです。ここで扱うのは記録のほうだけです
- 期限切れがゼロにはなりません。業者の都合で戻りが遅れることも、現場が持ち出したまま返らないこともあります。減らせるのは「気づかないまま切れていた」ぶんです。気づいていて間に合わなかったのは、相手に事情を説明できます
よくある質問
社内点検で済ませている器具が大半です
それで構いません。社内点検は手配日数を0〜1日で入れておけば、期限日での管理とほぼ同じ動きになります。効くのは外部に出す少数のほうです。数が少ないから台帳の中で埋もれ、埋もれるから切れます。手配日数の列は、その少数を上に浮かせるためにあります。
校正と点検を分けて管理しています
分けたまま同じ画面に載せます。列を1つ増やして「校正/点検/自主検査」を区別し、周期と手配日数をそれぞれ持たせます。分けて管理すること自体は正しいのですが、見る画面まで分けると、忙しい月に片方を見ません。並べ替えと絞り込みで分ければ十分です。
審査で出せる形式でないと意味がありません
画面のまま見せることもできますし、台帳を印刷・PDFにして出すこともできます。印刷とCSVの書き出しは最初から入れます。審査の場で「Excelでください」と言われることもあるので、そこは残します。様式を御社の既存の台帳に合わせるのも、最初の制作の範囲です。
校正証明書のPDFはどこに置きますか
器具の行にぶら下げます。年度ごとにフォルダを掘って番号で探す形をやめると、審査で「この器具の証明書を」と言われてから出すまでが数秒になります。ファイル名の付け方の取り決めも要らなくなります。
誰が入力するのですか
いまの台帳を更新している人がそのまま使います。新しく増える入力は、器具を動かしたときの1行だけです。現場に増やしてよい入力は1日ひとつまでだと考えたほうがよく、これは日報の転記の記事でも書いたとおりです。第2段階の出庫・返却は、スマホで器具番号を選んで押すだけの形にします。
いまのExcel台帳はそのまま使えますか
最初の取り込みに使います。器具番号・名称・前回校正日・周期の4列があれば移せます。手配日数だけは新しく決める必要がありますが、外部に出している業者の数だけなので、たいてい2〜3社です。
何台まで入りますか
数十台でも数百台でも同じです。台数より効くのは拠点と貸出があるかどうかで、1か所で棚から出し入れするだけならライトプランの範囲、複数の現場に貸し出して人ごとに記録を残すならスタンダードになります。
生産管理ソフトや品質管理ソフトに機能があります
あるなら、そちらで構いません。足りないのはたいてい「出す日での並べ替え」と「校正中・貸出中の区別」の2つです。その2つだけを外に作り、器具の一覧はCSVで受け取る形にできます。考え方はパッケージの外に残る仕事と同じで、中心のデータは元のソフトに置いたままにします。
データは誰が持つのですか
御社のものです。CSVでいつでも書き出せます。お預かりしたデータを、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。校正の記録は客先監査で見せるものなので、扱いには特に気をつけます。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
第1段階(台帳、出す日の逆算、証明書PDFの添付、印刷とCSV)はライトプランの範囲です。出庫・返却の記録を複数人で残し、検査記録と器具番号を紐づける第2・第3段階はスタンダードになります。お使いの品質管理ソフトはそのままで構いません。台帳の様式変更や業者の追加は保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
「今週出す器具」が1画面で分かる状態にします
いまお使いの校正管理台帳を1つ(器具番号は伏せていて構いません)と、外部に出している業者の数、戻るまでのおおよその日数。それだけで十分です。画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。外部に出す器具が1〜2台で、期限が全部同じ月に揃っているのなら、この仕組みは要りません。そのときは、その理由も正直に書きます。相談は無料です。
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