「この部品、どのロットの材料ですか」
客先から電話が来ます。「先月納めたぶんの、材料のミルシートをいただけますか」。ここから半日が消えます。まず納品書の控えを探して出荷日を出します。次にその週の作業日報を見て、どの材料から削ったかを思い出します。鋼材屋の納品書の綴りをめくって、その材料がいつ入ったものかを当てます。最後にメールの添付か、事務所の「ミルシート」フォルダから、それらしいPDFを探します。出てきた1枚が本当にその現品のものかは、最後まで確信が持てません。
先に結論を書きます。証明書が出てこないのは、保管していないからではありません。ほとんどの工場で、ミルシートは受け取った順にきちんと綴じてあります。問題はその形で、証明書が「材料の側」にしか無いことです。証明書は材料が入ってきた日付とロットで並んでいます。ところが客先が聞いてくるのは「この品番の、この納品分」という製品の側の言い方です。材料と製品が、どこにも結ばれていません。だから毎回、記憶と日付を頼りに推理することになります。
ミルシートが出てこない3つの理由
1. 証明書は材料の単位で来て、仕事は注文の単位で進む
ミルシートは1ロット(1炉・1チャージ)に1枚で来ます。ところが現場では、入ってきた6mの丸棒1本から3つの別の注文ぶんを取ることが普通にあります。逆に、数が足りなくて1つの注文に2ロットが混ざることもあります。つまり材料と注文は1対1ではなく、多対多です。紙の台帳で多対多を管理することはできません。だから多くの工場では、片方(材料の受入順)だけを台帳にして、もう片方は記憶と日付から推理する運用になります。推理が当たっている確率は、たぶん9割です。残りの1割がどれかは、分かりません。
2. 受入のときに、ロット番号を書き写す手が止まる
現品票に書いてあるのは、たいてい材質と寸法と数量までです。ロット番号や炉番は鋼材屋の納品書の隅にしか無く、現品票へ書き写すのは受入担当の手作業になります。忙しい日に、ここが飛びます。飛んだことは誰にも分からず、材料は普通に使われて、普通に出荷されます。困るのは半年後、客先から証明書を求められた日だけです。その時点で、飛んだかどうかを確かめる方法はもうありません。
3. PDFの置き場が3つある
ミルシートは、鋼材屋によってメール添付・FAX・納品書に同梱の紙のどれかで来ます。メールのものは担当者の受信箱、FAXは複合機のスキャンフォルダに「scan0417.pdf」の名前で、紙は事務所のバインダー。3か所に分かれたうえ、ファイル名から中身が分からないので、探すときは1つずつ開くことになります。枚数が増えるほど、開く回数だけが増えます。
この3つに共通していること
どれも「記録していない」という話ではありません。受入の記録も、証明書も、作業日報も、それぞれの場所にちゃんとあります。足りないのは記録そのものではなく、材料の記録と製品の記録をつなぐ1本の線です。紙の台帳は鍵を1つしか持てないので、材料順に並べた瞬間、製品順には読めなくなります。探す時間の正体は、その線を毎回、頭の中で引き直していることです。
やりたいのは、品質管理システムではありません
ここを取り違えると大きくなりすぎます。欲しいのは成分値の統計でも、規格判定の自動化でも、工程内トレースの全自動化でもありません。「品番 C-21、6月18日納品の30個:材料は S45C φ40、仕入先B、6月3日入荷、炉番 7742。証明書はこのPDF」の1行と、そのPDFです。客先から電話が来たときに、切らずにその場で答えられること。それだけです。
この1行が出るために必要なのは、受入と払出の2か所で、材料と注文が同じ鍵でつながることだけです。バーコードの全面導入も、工程ごとの実績収集も要りません。入れる内容は、今も現品票と日報に書いているものとほぼ同じです。変えるのは、書いた先で線がつながるかどうかです。
作るもの:3段階に分ける
第1段階:受入を1行にして、証明書をその行に貼る
材料が入ってきたら、その場で「材質・寸法・数量・仕入先・入荷日・ロット(炉番)・納品書番号」を1行入れます。ミルシートはPDFでも、紙をスマホで撮った写真でも、その行に添付します。ここで初めて、証明書が探せる場所に入ります。入れ終わると現品票が印刷でき、受入番号(例:R-0413)が大きく載ります。現場が覚えるのはこの番号だけです。ロット番号や炉番を現品票に書き写す作業は無くなります。
第2段階:使ったときに、注文と材料を結ぶ
切断や払出のときに、「どの注文に、どの受入番号から、何本(何kg)使ったか」を1行入れます。入力は受入番号を選んで数を打つだけで、10秒です。ここが線を引く場所です。同じ注文に2ロット混ざれば2行になり、それがそのまま事実として残ります。副産物として材料の残数が自動で減るので、材料の在庫表を別に更新する手間もここで消えます。端材が出た場合は、元の受入行から生まれた子の行として登録できるので、端材から作った部品もロットまでさかのぼれます。
第3段階:出荷のときに、書類を画面から出す
納品する注文を選ぶと、その注文に使った材料の証明書が自動で並びます。そのまま表紙(品番・数量・納品日・使用ロットの一覧)と一緒に印刷するか、PDFで1つにまとめて客先へ送れます。2ロット混ざっていれば2枚出ます。半年後に電話が来ても、品番と納品日で引けば同じものがその場で出ます。過去に出した書類の控えも、同じ画面に残ります。
入れるものと、出てくるもの
入れるもの:材料の受入1行とミルシートのPDF(または写真)/切断・払出のときの「どの注文に、どの受入から、いくつ」/端材の登録(出たときだけ)。
出てくるもの:受入番号入りの現品票/注文・品番・納品日から引く使用ロットと証明書/出荷書類(表紙+証明書)のPDF/材料の残数/仕入先別・材質別の入荷履歴のCSV。
逆に、期待しないほうがいいこと
- 材料の取り違えそのものは防げません。現品票を貼り間違えれば、画面も間違ったまま覚えます。仕組みが減らすのは、あとから探す時間と、証明書が正しいかどうか確信が持てない不安のほうです。
- 入れ始める前の材料はさかのぼれません。線が引かれるのは、受入と払出を入れ始めた日からです。過去1年ぶんをさかのぼって入れたい場合は、その打ち込みの手間が別途かかります(現実的なのは、いま在庫として現物がある材料だけを初日に棚卸として入れることです)。
- ミルシートの中身は読み取りません。PDFは添付して引けるようにするだけで、炭素量や引張強さを数値として取り込むことはしません。成分値で検索したい、規格の上下限と突き合わせたい、という話は別の作りになり、費用も変わります。まずは「該当の1枚が出る」で足りるかどうかを見てください。
- 現場が払出を入れなければ、線は引かれません。ここは仕組みでは解決できない部分です。だからこそ、払出の入力を受入番号を選んで数を打つだけに削っておくことを設計の条件にします。
よくある質問
ISOやIATFの審査でトレーサビリティを見られます。これで足りますか
審査で見られるのは「自社で決めた手順どおりに、材料と製品の紐づけが残っていること」であって、紙であることではありません。ですので、受入台帳・払出台帳・出荷書類を今お使いの様式に近い形で印刷できるようにします。移行の初期は紙と画面を1〜2か月並行させて、印刷したものが審査に出せる形かをご自身で確かめてから紙をやめるのが安全です。この判断は御社の審査機関と認証範囲によるので、こちらで「これで通ります」とは申し上げません。
客先から預かっている支給材もあります
同じ台帳に入ります。仕入先の欄を「客先支給」にして、先方の出荷案内やミルシートをそのまま添付します。支給材は残数の管理そのものが別の悩みになりやすいので、そちらは客先支給材の残数の記事に分けて書いています。証明書の紐づけと残数の管理は、同じ1行から両方出せます。
ミルシートが紙でしか来ません
スマホで撮って添付する形で足ります。文字を読み取る処理はしません(読み取りは誤りが混ざり、誤りが混ざった証明書は紙より危ないためです)。撮った画像はそのまま証拠として残り、印刷も添付もできます。複合機でスキャンしている場合は、そのPDFをそのまま上げれば同じです。
在庫から使うので、どのロットか分からなくなります
棚に同じ材質・同じ寸法の材料が2ロットぶん置いてあり、どちらを使ったか分からない——これはよくあります。画面は先入れ先出しで候補を出しますが、決めつけません。分からない場合は「候補:R-0413 / R-0455 の2件」と2件のまま残せます。客先には「このどちらかです」と正直に出すほうが、当てずっぽうで1枚に決めて出すよりはるかに安全です。この曖昧さが多すぎると感じたら、それは仕組みではなく置き場の分け方の問題として見えてきます。
鋼材以外でも使えますか
使えます。樹脂の材料証明、アルミのミルシート、購入部品の検査成績書やRoHSの非含有証明——名前が違うだけで、構造は同じ(ロットに1枚の証明書が、注文と多対多でつながる)です。品目の種類が増えても入れる欄は変わりません。
うちは小ロットで、材料の種類が多いのですが
種類が多いほど効きます。手で追える限界はだいたい材質と寸法の組み合わせが20を超えたあたりで、そこから先は「どれを使ったか」が記憶で決まるようになります。ただし最初から全材質を登録しようとすると止まります。証明書を求められることが多い材質(多くの場合は構造用の鋼材1〜2種)だけを先に始めるのが現実的です。
まず何から始めればいいですか
直近で客先からミルシートを求められた件を1つ選んで、その現品の材料までさかのぼってみてください。10分で確信を持って出せたなら、いまは仕組みを作るタイミングではありません。「たぶんこれ」で止まった、あるいは30分以上かかったなら、それが直すところです。次に同じ電話が来たときも、同じ時間がかかります。
データは誰が持つのですか
御社のものです。受入・払出・出荷の履歴はCSVで、添付したPDFはファイルのままいつでも書き出せます。お預かりしたデータを、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。材料の記録には仕入先と単価、客先の品番が含まれるので、扱いには特に気をつけます。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
受入と払出を1人が入れて、注文から使用ロットと証明書を引き、現品票を印刷するところまではライトプランの範囲です。現場の複数人がそれぞれの端末から払出を入れて誰が入れたかを残す、証明書のPDFをまとめて貯める、出荷書類を表紙つきの1つのPDFにして出す、端材を子の行として追う——このあたりはスタンダードになります。入れる欄を足す、現品票の様式を変える、といった変更は保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
「その品番の6月納品ぶんは、この炉番です。証明書をいまお送りします」がその場で言える状態にします
いまお使いの現品票を1枚と、直近のミルシートを1枚(仕入先名と単価は伏せていて構いません)。それだけで十分です。画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。材料が1〜2種類で、証明書を求められることがほとんど無いのであれば、作らないほうがよいとお伝えします。相談は無料です。
メールで相談する 入力フォームで相談するボタンを押してもメールが開かないときは
入力フォームからお送りいただけます(メールソフトは要りません)。メールでお送りになる場合は、下の内容をコピーして tool48h.studio@gmail.com 宛にどうぞ。件名は何でも構いません。
この記事に近い業種のページ:製造業
関連:「弊社の支給品、あと何本あります?」 / 検査成績書に30分かかるのは、測っているからではない / 無料診断でプランを調べる / 記事一覧
48時間