棚卸の夜に、棚札を打ち直している
期末の土曜日、現場は朝から数えています。棚札に鉛筆で品番と数量を書き、事務所に束で上がってきます。事務の人はそれを1枚ずつExcelに打ち込み、単価を引いて金額にし、帳簿の在庫と突き合わせます。終わるのは夜で、しかも読めない字が何枚か残ります。翌週「これ何て書いてあります?」と現場に聞いて回り、そこでまた1日が消えます。
先に結論を書きます。棚卸が重いのは、数える作業が重いからではありません。数えるのは半日で終わります。重いのは、数えた紙をもう一度打ち直すことと、差異が出たときに原因まで辿れず、来年も同じ差異が出ることです。この2つは、数え方を変えなくても外せます。順番に説明します。
棚卸が夜まで終わらない3つの理由
1. 数えた紙と、集計するExcelが別の物になっている
現場が書くのは棚札かカウント用紙、集計するのはExcelです。間に転記が1回入ります。転記は1件あたり10秒でも、品目が800あれば2時間強かかります。そのうえ、転記の途中では間違いに気づけません。数量の桁を1つ多く打っても、単価を掛けた金額が出てくるまで誰も気づかず、最後の合計を見て「去年より多すぎる」となってから探し始めます。
探すときも、元の紙は束のままです。品番で並んでもいなければ、棚の順にも揃っていません。1枚ずつめくって探すことになります。
2. 「何を数えるか」が、数え始める前に確定していない
自社の棚にある物は数えます。問題は棚にない物です。
- 外注先に出したまま戻っていない分(メッキ、熱処理、塗装に出している仕掛品)
- 客先から預かっている支給材(自社の資産ではないので、金額には入れないが、数は合わせないといけない)
- 客先に預けてある製品(納品済みだが検収前、あるいは預け在庫)
- 仕掛品(どの工程まで進んだかで金額が変わる)
これらは棚札が貼れません。貼れないので、数える一覧そのものに載りません。載っていないものは数え漏れとしてではなく、差異として後から出てきます。差異として出てきた時点では、数え漏れなのか、本当に無くなったのかが区別できません。
3. 差異が出ても、原因に辿れない
帳簿は120本、実地は115本。差は5本です。このとき残っているのは「115」という数字だけで、誰がどの棚をいつ数えたかは残っていません。ですので、できることは「もう一度数える」か「差異を受け入れて帳簿を直す」の二択になります。たいていは後者です。
そして翌年、同じ品番でまた差が出ます。去年も出ていたかどうかは、去年の集計Excelを開かないと分かりません。開いても、去年のファイルは「棚卸_最終_確定版2.xlsx」という名前で、どれが本物かの確信が持てません。
この3つに共通していること
どれも「現場の数え方が雑だから」という話ではありません。数えた瞬間の情報が、その場で捨てられているだけです。誰が、いつ、どの棚を、いくつ数えたのか。これは数えた本人が数えた瞬間には全部持っているのに、紙に書き写した時点で数量しか残りません。必要なのは正確に数える努力ではなく、数えた瞬間の情報をそのまま残す入口です。
効くのは、集計の場面ではなく、数えているその場です
集計を速くするソフトを入れても、打ち直しは消えません。打ち直しが消えるのは、現場が数えたその場で数字が入ったときだけです。
スマホかタブレットで、自分の担当の棚の一覧を開きます。品番と品名、前回の数量、帳簿の数量が並んでいます。数えた数を入れると、その場で「前回と違いすぎます」と出る。桁を間違えたなら、そこで気づきます。事務所に上がってくる頃には、集計は終わっています。
- 数える一覧が、棚の順に並んでいる(探し回らない)
- 入れた瞬間に、帳簿との差が出る(大きい差だけ、その場でもう一度数える)
- 誰がいつ入れたかが自動で残る(後から聞きに行ける)
ここで大事なのは、目指すのが「差異ゼロ」ではないことです。差異は出ます。目指すのは、出た差異のうち、どれを調べる価値があるかがその日のうちに分かる状態です。金額の大きい順に10件見れば、たいてい全体の差の8割が説明できます。
「数えて入れると、その場で結果が変わる」動きを試す クリニックの物品在庫として作ったデモです。品目は医薬品と衛生材料ですが、在庫数を入れると発注が要る品だけが上に出る、という中身は棚卸の差異の出し方とまったく同じ作りです。ブラウザだけで動き、入力したデータは端末の中だけに残ります。作るもの:3段階に分ける
第1段階:数える一覧を画面に出して、その場で入れる
品目1つにつき1行。品番、品名、置き場、単位、前回数量。これを棚の順に並べて、スマホで開けるようにします。数量を入れると保存され、誰がいつ入れたかが一緒に残ります。入力は数字だけで、文字は打ちません。
この段階で、打ち直しがまるごと消えます。紙が要る場所(電波が届かない倉庫、紙のほうが速い人)のために、同じ一覧をそのまま印刷できるようにもしておきます。印刷した紙で数えて、後で1人がまとめて入れる形でも、集計の手間は変わりません。ここはライトプランの範囲で、48時間で出せます。
置き場の順番は、最初から正しくある必要はありません。1回使って「この棚は先に回ったほうが速い」と分かったら、そこで並べ替えればよいものです。
第2段階:金額にして、帳簿との差を大きい順に出す
単価を持たせて金額を出し、帳簿在庫と突き合わせます。出すのは合計ではなく、差額の大きい順に並んだ一覧です。上から10行見れば、その年の差異の大半がどこで出たかが分かります。
ここで、第2段階の値打ちが出ます。差の大きい行だけを、その日のうちにもう一度数えに行けることです。今のやり方では、差が判明するのは集計が終わった夜か翌日で、そのときには現場はもう帰っています。数え直すには次の休日を待つことになり、待てないので差異を受け入れます。
帳簿の数量は、販売管理ソフトからCSVで受け取ります。元のソフトを置き換える話ではありません。考え方はパッケージの外に残る仕事と同じで、中心のデータは元のソフトに置いたままにします。
第3段階:棚に無い物を、区分を分けて載せる
外注先にある分、客先に預けてある分、客先から預かっている支給材、工程途中の仕掛品。これらを「自社の棚」とは別の区分として同じ一覧に載せます。区分が分かれていれば、金額に入れるもの(自社資産)と、数だけ合わせるもの(預かり品)を取り違えません。
外注先の分は、出した日と数量が残っていれば自動で出せます。出しっぱなしに気づかない問題そのものについては外注工程の記事に、客先支給材の残数の出し方は支給材の記事に書きました。棚卸のために作るデータと、普段の管理で要るデータは同じものなので、片方を作るともう片方も出ます。
この段階まで来ると、去年の棚卸がそのまま残ります。同じ品番で2年続けて差が出ていれば、一覧に印が付きます。数え漏れなのか、出庫の記録が抜けているのか、本当に減っているのか。原因の見当がつく状態になります。
よくある質問
倉庫の奥は電波が届きません
届かない場所がある前提で作ります。画面を先に読み込んでおけば、電波が切れた場所でも入力は端末の中に溜まり、戻ってきたところでまとめて送られます。それでも不安な区画は印刷した一覧で数えて、後から入れる形にします。全部を画面にしなくても、打ち直しの量は大きく減ります。
バーコードもハンディターミナルもありません
要りません。品番の頭を3文字入れると候補が絞られる形で、探す時間はほぼ無くなります。ハンディターミナルは、品目が数千あって毎日動く現場では効きますが、年に1〜2回の棚卸のために買うものではありません。後から足すこともできます。
販売管理ソフトに棚卸の機能があります
あるならそちらを使います。実際に足りていないのは、たいてい「現場がその場で入れる入口」と「棚に無い物の扱い」の2つです。この2つだけを外に作り、確定した数量をCSVで元のソフトに戻す形にできます。
年に2回しかやりません。作るほどでしょうか
年2回のためだけなら、急ぎません。ただ、同じ仕組みは月に1回、棚を区切って数える回し方(循環棚卸)に使えます。月に1棚ずつ回せば、期末に全部を止めて数える日が要らなくなります。年2回の棚卸がつらいのは、一度に全部やるからです。「期末を軽くしたい」が目的なら、そちらのほうが効きます。
仕掛品の評価額はどう決めるのですか
評価の方法は、顧問の税理士・会計士が決めたものに合わせます。こちらで決めることはしません。ツールがやるのは「何がいくつ、どの工程まで進んでいるか」を出すところまでで、そこに掛ける率や単価は先生の指示どおりに設定します。評価方法が変わったら、設定を変えるだけで過去分も出し直せる形にしておきます。
数える人が毎年違うので、教えるのが大変です
画面を「数字を入れるだけ」にしておけば、説明は3分で済みます。教えるのが大変なのは、今のやり方が「棚札の書き方のルール」を覚える必要があるからです。どの欄に品番を書くか、単位は本かmか、端数はどうするか。これは画面側に持たせられます。
今のExcelの棚卸表をそのまま使えますか
使います。品番・品名・置き場・単位・単価の列があれば、そのまま読み込んで一覧の元にします。作り直しはしません。列の名前が揃っていなくても、どの列が何かをこちらで対応づけます。書き出しも同じ形のCSVで出せるので、今までの集計表の続きとして使えます。
データは誰が持つのですか
御社のものです。CSVでいつでも書き出せます。お預かりしたデータを、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
第1段階(数える一覧、その場の入力、印刷とCSV)はライトプランの範囲です。複数人が同時に数える、帳簿との差異を金額順に出す、外注・預け・仕掛を区分で持つ、前年と比べる——このあたりはスタンダードになります。区分の追加や単価の持ち方の見直しは保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
棚卸の夜を、数え終わった時点で終わらせます
いまお使いの棚卸表を1枚(品番と単価は伏せていて構いません)と、去年いちばん手間だったところがどこか。それだけで十分です。画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。品目が数十で1人が半日で終わっているなら、この画面は効きません。そのときは、その理由も正直に書きます。相談は無料です。
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