「あのチップ、最後の1枚でした」
朝、段取りに入ります。図面の指定は特定のコーティングのチップです。棚を開けると、箱はあるのに中が空です。昨日の夕方、誰かが最後の1枚を持って行きました。商社に電話すると、在庫が無いので入るのは3日後。手は2つしかありません。汎用のチップで流して面を諦めるか、機械を空けて別の仕事を先に入れるか。どちらも、前の日の夕方に分かっていれば起きなかった話です。
先に結論を書きます。工具と消耗品の在庫が合わないのは、在庫表を作っていないからではありません。減ったことが、減った場所で記録されないからです。材料は指図に紐づいて出庫されます。工具は、現場の人が棚から取っていくだけです。取った記録がどこにも残らないので、在庫表は作った日だけ正しく、翌週には合いません。合わないと分かっている表は、誰も見なくなります。順番に説明します。
在庫表があるのに「無い」が出る3つの理由
1. 出ていったことが、出ていった場所で記録されない
工具室や棚は、たいてい鍵が掛かっていません。鍵を掛けると段取りが止まるからです。取るのは3秒、記入は事務所のExcelを開いて30秒。この差がある限り、書かれません。書かないのは横着だからではなく、取る場所と書く場所が離れているからです。月に一度の棚卸で数を合わせても、次の週にはまたずれます。
2. 同じ物に名前が3つある
メーカーの型番、社内の呼び名、そして現場での「いつもの」。発注書はメーカー型番で出て、在庫表は社内の呼び名で並び、現場は「いつもの黒いやつ」で取っていきます。この3つが結びついていないと、在庫表に「ある」と書いてあるのに棚に無い、棚にはあるのに在庫表に載っていない、という状態が同時に起きます。さらに、同等品を別メーカーで買った回があると、行が増えて分かれます。数が合わない原因の半分は、消えたのではなく、別の行に分かれていることです。
3. 発注点が「箱の数」で決まっていて、使う速さが入っていない
「2箱を切ったら発注」という決め方が多いです。これは使う速さが一定のときだけ正しいやり方です。実際には、その刃物を使う品番の注文が重なった月は倍のペースで減ります。2箱では足りません。逆に、半年動いていない刃物にも同じ基準で発注がかかり、棚に積み上がります。減る速さと、入るまでの日数。この2つが入っていないと、発注点はどこに置いても外れます。この構造は材料発注の記事で書いたものと同じで、対象が材料から刃物に変わっただけです。
この3つに共通していること
どれも「管理がずさん」という話ではありません。在庫表は、買ったものを数えるために作られています。買う側の都合で作られた表なので、次にその刃物を使う人の都合には合っていません。段取りの朝に要るのは「いま何個あるか」ではなく、「明日の段取りに要るものが、全部そろっているか」です。買う側の表からは、この答えが出ません。
気づく時点を、段取りの朝より前に持ってくる
棚を開けて空だと分かる。これがいまのいちばん早い時点です。ここで分かっても、商社のリードタイムのほうが長いので、打てる手はありません。効くのは、生産計画を組むときと、受注を入れるときです。
翌週の計画を組んだ時点で、次が1画面に出ます。
- その週に流す品番で使う刃物と消耗品(品番に紐づいた一覧)
- いまの残りで足りるか(残数と、その週に必要な数)
- いま出せば間に合うか(商社ごとのリードタイムを引いた「発注する日」)
「来週の水曜に流す仕事で、指定のチップが2枚足りない」と月曜に分かれば、手は3つあります。いま発注する、同等品に切り替える判断を先に取る、その仕事を翌週に回す。当日の朝に分かった場合、手はひとつも残っていません。出したいのは在庫の正確な数ではなく、「いま動かないと間に合わないもの」の行だけです。
作るもの:3段階に分ける
第1段階:棚の前で減らせる形にする
棚の各段に、品目のバーコードかQRを貼ります。スマホで読むと、その品目の画面が開き、「2枚取った」を2タップで書けます。誰が取ったかは、端末を選ぶか名前のボタンを押すだけ。理由も、どの仕事に使うかも、最初は書かせません。書く内容を1つにしないと、続きません。
ここで大事なのは、入力の場所を、物を取る場所と同じにすることです。事務所に戻ってExcelを開く形にすると、また書かれなくなります。棚の前に古いタブレットを1台置いて、読み取り専用にしている会社もあります。
これだけで、在庫表は動き始めます。第2段階に進まなくても、「棚の空箱で初めて気づく」は無くなります。
発注点を割ったものだけが上に出る動きを試す クリニックの物品在庫として作ったデモです。品目は医薬品と衛生材料ですが、「1日あたりの使用量 ×(入荷日数+安全在庫)」で発注点を引き、割った品目だけを上に並べて発注書を印刷する、という中身は刃物や副資材でもそのまま同じです。ブラウザだけで動き、入力したデータは端末の中だけに残ります。第2段階:名前を1つにまとめる
1つの品目に、メーカー型番・社内の呼び名・現場の通称・過去に買った同等品をぶら下げます。どれで検索しても同じ行に着きます。発注書はメーカー型番で出し、棚のラベルは現場の通称で刷る。人が呼び分けるのをやめるのではなく、機械のほうで結びます。
この作業は一度きりで、たいてい半日から1日です。手間に見えますが、ここを飛ばすと第3段階が動きません。品番と工具を結ぶとき、工具の行が分かれていると「足りている」と「足りない」が同時に出るからです。
第3段階:発注点を、使う速さから出す
払出の記録が3か月ぶん溜まると、1週間あたりに何個減るかが出ます。これに商社ごとのリードタイムを掛けて、「入るまでに使ってしまう数」を出します。発注点はその数に安全分を足したところに自動で置きます。箱の数で決めるのをやめます。
さらに進めるなら、品番と工具を結びます。「この品番を1個作るのに、このチップを0.05枚使う」という係数を持たせると、生産計画から必要数が出ます。ただしこの係数は、最初から正確である必要はありません。払出の実績と生産数の割り算で出した概算で十分です。要るのは小数第3位の精度ではなく、「来週の仕事に足りるかどうか」の判断だからです。
逆に、期待しないほうがいいこと
- 工具の寿命は予測しません。「このチップはあと何個削れるか」は、材質・切削条件・機械の状態で変わります。作るのは在庫の残りを出すところまでで、摩耗の予知はしません。1本ずつの使用時間を積むのは、専用の工具管理システムの領分です
- ゼロにはなりません。急いでいる人は、読み取らずに取っていきます。これを無くそうとして棚に鍵を掛けると、段取りが止まって現場が別の隠し在庫を作ります。ずれは棚卸で吸収する前提にして、そのかわり棚卸を「数えたその場で入力して終わる」形にします(実地棚卸の記事)
- 最初の棚卸は人がやります。いま何がいくつあるのかを一度は数える必要があります。ここを自動化する方法はありません。ただし全数を一度に数える必要はなく、よく使う上位2〜3割から始めれば、効く部分はすぐ埋まります
- 商社の在庫は御社の在庫ではありません。「商社がいつも持っている」ものは、持っていない月があります。画面には「自社の棚にある数」だけを置き、商社の在庫はリードタイムの日数として持たせます
- 適正在庫の金額は、この画面では決まりません。いくら寝かせていいかは経営の判断です。出せるのは「動いていない品目と、その金額」までで、捨てるか持ち続けるかは人が決めます
よくある質問
品目が数百点あります。全部を登録するのは無理です
全部は要りません。直近3か月で1回でも動いたものから始めてください。多くの会社で、これは全体の2〜3割です。残りは棚にあるまま「未登録」で構いません。次に動いた日に登録すれば、そのとき初めて要るからです。最初に全数を揃えようとして、半年経っても始まらない——これがいちばん多い止まり方です。
チップの箱が小さくて、バーコードを貼れません
貼るのは物ではなく、棚の位置です。棚の段や仕切りにラベルを貼り、そこに入っているものを紐づけます。物が動いても位置は動かないので、こちらのほうが続きます。1つの位置に複数の品目が混ざっている場合だけ、仕切りを足すか、位置のラベルを分けます。
再研磨に出す刃物はどう扱いますか
研磨に出た本数は「在庫」から抜き、「研磨中」として別に持ちます。ここを在庫に含めたままにすると、棚に無いのに「ある」と出ます。出した日と戻る予定の日を持たせ、予定を過ぎたものだけを一覧の上に出せば、催促もできます。構造は外注工程の記事と同じで、手元から出た物を別の表で管理すると、必ず片方が古くなります。同じ行の中で状態を持たせるほうが続きます。
再研磨の回数に上限(あと2回まで、など)がある場合は、本数ではなく1本ずつの行が要ります。そこまで要るかどうかは、廃却の判断を誰かの目で見ているかどうかで決まります。多くの会社では、本数と回数の平均で足ります。
機械に載ったままのツールホルダやアーバはどうしますか
これは消耗品ではなく備品なので、数えるのではなくどこにあるかを持ちます。金型や治具と同じ扱いになるので、金型・治具の台帳の記事のほうが近いです。同じ画面に混ぜると、「減るもの」と「動くもの」で必要な列が違うので、どちらも使いにくくなります。
商社が持ってきて、使った分だけ払う形(消化仕入れ)です
その場合でも残数を自社で持つ価値はあります。月末に商社が数えて請求してくる形だと、請求書が来るまで使用量が分かりません。棚の前で減らしておけば、月中に「今月は多い」と気づけますし、商社の請求と突き合わせられます。実際、この突き合わせで数の食い違いが見つかることがあります。
生産管理ソフトに在庫機能が付いています
使えるなら、そちらを使ってください。足りないのはたいてい「棚の前で減らせる入口」の1点です。ソフトの在庫機能は、入庫と出庫を伝票で処理する前提で作られていて、工具のように伝票なしで動くものには重たすぎます。入口だけを外に作り、日次か週次でCSVを渡す形にできます。考え方はパッケージの外に残る仕事と同じで、中心のデータは元のソフトに置いたままにします。
誰が入力するのですか
取った人です。段取りをする人、加工中に替える人。1回の入力が10秒で終わらないなら、書かれません。ですので、バーコードを読んで数をタップするだけにします。事務方がまとめて入力する形にすると、「いつ減ったか」が伝わらないので、使う速さが出せなくなります。
棚卸の数と合わなかったら、どうするのですか
棚卸の数を正としてその場で上書きし、差の履歴だけを残します。原因を毎回追うと棚卸が終わりません。3か月ぶん溜めると、いつも合わない品目が見えてきます。そこだけ原因を見れば十分で、たいていは「1箱の入り数が途中で変わった」「同等品が別の行に立っている」のどちらかです。
データは誰が持つのですか
御社のものです。CSVでいつでも書き出せます。お預かりしたデータを、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
第1段階(品目の一覧、バーコードで開く画面、払出の記録、発注点を割ったものの一覧、印刷とCSV)はライトプランの範囲です。複数人がスマホから入れて誰が取ったかを残す、払出の実績から発注点を自動で出す、品番と工具を結んで生産計画から必要数を出す——このあたりはスタンダードになります。発注点の見直しや品目の追加は保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
「明日の段取りに要るものが、そろっているか」が前の週に出る状態にします
いまお使いの在庫表を1枚(メーカー名と単価は伏せていて構いません)と、よく切らして困る品目がどんなものか。それだけで十分です。画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。商社が毎日来ていて切らしたことが無いのなら、この画面は効きません。そのときは、その理由も正直に書きます。相談は無料です。
メールで相談する 入力フォームで相談する今いちばん手間になっている作業をひとつ教えていただければ、その作業に合わせた試作画面を 1 枚、無料でお作りします。
その作業をここに書いて送る(無料の試作画面を頼む) →入力フォーム。会社名・お名前・メール・作業の4項目だけです。メールソフトは要りません。
ボタンを押してもメールが開かないときは
入力フォームからお送りいただけます(メールソフトは要りません)。メールでお送りになる場合は、下の内容をコピーして tool48h.studio@gmail.com 宛にどうぞ。件名は何でも構いません。
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