「その品番、いまいくらで出していましたっけ」
材料が上がったので、値上げのお願いを出すことになりました。まず、いまいくらで出しているかを調べます。見積フォルダを開いて、A社の品番C-12を探します。去年の11月の見積書が出てきました。あった、と思ったら、その後に一度だけ下げた記憶があります。下げたときのやりとりはメールのどこかにあるはずです。交渉を始める前の「いまいくらか」を確かめるところで、半日が終わります。
先に結論を書きます。単価が見積書の中にしか無い限り、値上げは品番の単位でやり切れません。見積書は「そのとき出した金額」の記録であって、「いまの単価」ではないからです。要るのは、得意先と品番の組み合わせごとに、適用開始日つきで1行になっている台帳です。順番に説明します。
単価表を作っているのに、値上げが出せない3つの理由
1. 単価が「見積書の中」にしかない
Excelの見積書は案件ごとのファイルです。ファイル名は「20251104_A社_御見積.xlsx」で、中に10品番が並んでいます。品番の側から引こうとすると、フォルダを開いて回るしかありません。得意先別の単価表を別に作っている会社もありますが、たいてい途中で更新が止まっています。見積を出す人と単価表を直す人が同じであっても、忙しい日に一度飛ばすと、そこから先はもう信用できない表になります。信用できないので誰も見なくなり、見ないのでさらに更新されません。
2. いつから適用したのかが残っていない
単価表を上書きで直していると、前の単価が消えます。消えると「4月に値上げをお願いして通ったのに、5月の請求は旧単価だった」を後から検証できません。得意先から「その単価、いつからの話でしたか」と聞かれて、送信済みメールを遡ることになります。単価は「いまいくら」ではなく、「いつからいくら」で持つ必要があります。この1列があるかどうかで、値上げが作業になるか、思い出す仕事になるかが変わります。
3. 得意先ごとの例外が、担当者の頭にある
同じ品番でも、B社は月200個まとめてくれるので少し安い。C社は支給材なので加工賃だけ。D社は3年前の単価で止まったままになっている。この例外は、たいてい表には書かれていません。書かれていないので、値上げの対象一覧を機械的に作ると「そこは事情があるから外して」と後から言われ、作り直しになります。作り直しが重いので、次からは一覧を作らずに「思い出せる先」だけに出すようになります。出せる件数が、覚えている件数で頭打ちになります。
この3つに共通していること
どれも「表を作っていないから」ではありません。単価が、案件の記録の副産物になっているだけです。見積は案件ごとに出しますが、単価は品番と得意先に付きます。この2つは向きが違うので、案件のファイルから毎回読み取っていると、品番の側から数えられません。値上げは、品番の側から数える仕事です。
本当に重いのは、交渉ではありません
値上げのお願いを出すところまでは、時間さえかければできます。重いのは、通った後です。「6月1日から」と合意した単価が、6月の注文に反映されているか。手配と請求が旧単価のまま流れていないか。品番が20や30なら、目で追えます。100を超えると、通ったはずの値上げが静かに漏れます。
漏れても、得意先は言ってきません。こちらが出した請求書のとおりに払うだけです。半年後に粗利を見て「上げたはずなのに変わっていない」と気づきます。実際に起きるのは、だいたい次の3つです。
- 合意した単価と、実際に請求した単価が違う(いちばん多い。改定した品番のうち数行だけが旧単価で流れる)
- 合意した日より前の注文残に、新単価を当ててしまった(逆向きの取り違え。こちらは先方から指摘されるので、信用のほうが減る)
- 一部の品番だけ通り、残りが「交渉中」のまま止まっている(誰も追っていないので、半年後に気づく)
この3つは、単価に適用開始日と状態が入っていれば、すべて機械で検出できます。入っていなければ、1件ずつ人が突き合わせるしかありません。突き合わせは面倒なので、やらずに済ませます。やらずに済ませたぶんが、そのまま粗利の差になります。
作るもの:3段階に分ける
第1段階:得意先×品番の単価台帳(適用開始日つき)
列は、得意先・品番・品名・単位・単価・適用開始日・根拠(見積番号かメールの日付)・状態・備考。肝は適用開始日で、これがあると単価表は上書きではなく追記になります。同じ得意先・品番で行が増えていき、今日の日付で有効な行が「いまの単価」です。過去の単価は消えないので、いつからいくらだったかがそのまま履歴になります。
| 得意先 | 品番 | 単価(円) | 適用開始 | 状態 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| A社 | C-12 | 1,280 | 2025-04-01 | 過去 | |
| A社 | C-12 | 1,420 | 2026-06-01 | 有効 | 材料改定ぶん |
| B社 | C-12 | 1,180 | 2024-10-01 | 有効 | 月200個まとめ |
| C社 | K-7 | 640 | 2026-07-01 | 依頼中 | 支給材・加工賃のみ |
※ 表の得意先・品番・単価は、形を見ていただくための見本です(実在の取引ではありません)。
同じ品番でも得意先ごとに行が分かれるので、例外は備考ではなく行そのもので表せます。担当者の頭にあった「B社はまとめてくれるから安い」が、画面に出てきます。出てくれば、次の改定でその行を外すかどうかを、思い出さずに決められます。
最初の取り込みは、いま出している見積書から品番と単価を拾うところからです。全部を一度に揃える必要はありません。よく出る品番の上から100行ほど入れば、値上げの一覧は作れます。残りは注文が来たときに1行ずつ足します。揃うまで使えない形にすると、たいてい揃う前に止まります。
第2段階:改定の一覧と、得意先に出す紙
材料の値上がり率や加工賃の見直し幅を入れると、対象の品番と、改定後の単価と、年間の影響額が一覧で出ます。年間の影響額は「直近12か月の数量 × 差額」で出します。この数字があると、社内で「どこから出すか」を決められます。全部を同時に出さなくてよくなるのが効きます。上位2割の得意先で影響額の8割になることが多いので、そこだけ先に出して、残りは次の期に回す判断ができます。
得意先ごとに紙1枚(またはPDF)を出します。載せるのは、品番・現行単価・改定単価・適用希望日。こちらの都合(材料がいくら上がった)は1〜2行で十分で、相手の購買が見たいのは自分の品番の一覧です。送った日と、返事の状態(依頼中・合意・保留・見送り)を台帳に持ちます。ここが第3段階につながります。
第3段階:注文・請求との突き合わせ
注文が入ったときに、その得意先・品番・注文日で台帳を引き、その日に有効な単価を出します。注文書の単価と違っていれば、その場で分かります。請求のときも同じで、締めの前に「台帳と違う行」だけが出てきます。
すでに販売管理ソフトをお使いなら、注文と売上のCSVを月に一度読ませるだけで十分です。台帳の単価と突き合わせて、違う行だけを出します。たいてい数行です。その数行が、通したはずの値上げの漏れです。
第3段階は後回しで構いません。第1段階だけでも、値上げの一覧は作れます。ただし第2段階で「依頼中・合意」の状態を持っておかないと、第3段階を後から足せません(何と突き合わせるかが決まらないため)。順番はこの通りが楽です。
逆に、期待しないほうがいいこと
- 交渉は代われません。出すのは一覧と紙までです。相手の購買と話すのは御社の仕事で、そこがいちばん難しいことは承知しています
- 「いくらにすべきか」は出せません。原価から適正単価を出すには、材料の歩留まりと工数の実績が要ります。そちらは別の話で、見積の時間と実際にかかった時間の記事に書きました。ここで作るのは「いまいくらで出しているか」を数えられる形です
- 得意先の購買システムには入りません。Web-EDIに新単価を登録する作業は、相手の画面での手作業のままです。減らせるのは「何を登録するか」を調べる時間だけです
- 原価計算ソフトの代わりにはなりません。単価と数量は持ちますが、配賦や標準原価は扱いません
- 値上げが通るようにはなりません。通る率が上がるのではなく、出せる件数と、通った後の取りこぼしが変わります。効くのは交渉力ではなく、そこです
よくある質問
品番が数千あります
全部を入れる必要はありません。直近12か月に注文があった品番だけで始めます。たいてい全体の2〜3割です。動いていない品番は、注文が来たときに1行足せば済みます。数千行を入れてから使い始めようとすると、入れ終わる前に改定の時期が過ぎます。
単価は商社経由で決まっています
台帳の「得意先」を商社にします。商社と最終ユーザーの両方を持ちたい場合は列を分けますが、値上げをお願いする相手は商社なので、最初は商社だけで構いません。最終ユーザーごとの数量を見たくなってから足しても、行の形は変わりません。
都度見積で、同じ品番を繰り返し受けることが少ないです
その場合は、この台帳より再受注の見積の記事の作り方のほうが合います。単価が品番に付かない仕事では、単価表は薄くしか効きません。代わりに効くのは材料費と加工単価(時間あたり)のほうなので、台帳の単位をそちらに変えます。同じ形を無理に当てないほうがいいです。
Excelの単価表がすでにあります
そのまま取り込みます。得意先・品番・単価の3列があれば移せます。適用開始日だけは新しく決める必要がありますが、分からないものは「不明」で入れて構いません。次の改定から履歴が積み上がるので、1回目の改定を過ぎれば自然に埋まります。
値上げのお願いの文面も作ってもらえますか
一覧と表は作ります。文面のひな形も一緒に用意しますが、最終的な言い回しは御社で直してください。取引の関係はこちらからは見えないので、そこはお任せするほうが確実です。
販売管理ソフトに単価マスタがあります
あるなら、そちらを正にします。足りないのはたいてい「適用開始日での履歴」と「改定の依頼状態」の2つです。その2つだけを外に作り、単価マスタはCSVで受け取る形にできます。考え方はパッケージの外に残る仕事と同じで、中心のデータは元のソフトに置いたままにします。
誰が入力するのですか
いま見積を出している人です。新しく増える入力は、単価が変わったときの1行だけです。値上げをお願いした日と、返事が来た日も、同じ行に足します。現場に増やしてよい入力は1日ひとつまでだと考えたほうがよく、これは日報の転記の記事でも書いたとおりです。
過去の単価を見せたくない相手がいます
台帳は社内のものなので、外には出ません。得意先に出す紙には、現行単価と改定単価の2つだけを載せます。いつから今の単価なのかを載せるかどうかは、相手ごとに選べるようにします。「3年据置でした」と書けるほうが通りやすい相手もいれば、触れないほうがいい相手もいます。
データは誰が持つのですか
御社のものです。CSVでいつでも書き出せます。お預かりしたデータを、他社の案件や第三者のサービスに使うことはありません。単価は取引先との合意事項なので、扱いには特に気をつけます。
費用と期間
| プラン | 内容 | 期間 | 金額(税別) |
|---|---|---|---|
| ライト | 画面1〜2枚、機能1つ。個人〜数人での利用 | 48時間 | ¥98,000 |
| スタンダード | 画面3〜6枚。データ蓄積・ログイン・通知・外部連携1つ | 5営業日 | ¥298,000 |
| 保守・改修 | 月2件までの改修、不具合対応は無制限 | 月額 | ¥30,000 |
第1段階(得意先×品番の単価台帳、適用開始日での履歴、印刷とCSV)はライトプランの範囲です。改定の一覧と得意先別の紙、依頼状態の管理、注文・売上CSVとの突き合わせまで入れるとスタンダードになります。お使いの販売管理ソフトはそのままで構いません。改定率の入れ方や帳票の様式変更は、保守の範囲(月2件までの改修)で対応できます。
「いま、どの得意先にいくらで出しているか」を数えられる状態にします
いまお使いの見積書か単価表を1つ(金額は伏せていて構いません)と、よく出る品番のおおよその数、値上げをお願いしたい得意先の数。それだけで十分です。画面が何枚になり、ライトとスタンダードのどちらなのかを1枚にしてお返しします。品番が20〜30で得意先が2〜3社なら、この仕組みは要りません。Excelの1シートで足ります。そのときは、その理由も正直に書きます。相談は無料です。
メールで相談する 入力フォームで相談するボタンを押してもメールが開かないときは
入力フォームからお送りいただけます(メールソフトは要りません)。メールでお送りになる場合は、下の内容をコピーして tool48h.studio@gmail.com 宛にどうぞ。件名は何でも構いません。
この記事に近い業種のページ:卸売業
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